ビッグモーター社による修理や車検のために持ち込まれた車に故意にさらに傷をつけて修理費用を上増しするという行為が大きな社会問題になりました。
そのビッグモーターの不正行為に協力しているであろうと言われているのが損保ジャパンです。
ビッグモーターの保険の不正請求を見て見ないふりをすることで、自社の保険商品をビッグモーターに売り込んでもらうという持ちつ持たれつの関係が成立し、それがビッグモーターの不正行為を加速させることにもなっていたのでは?とされています。
損保ジャパン ビッグモーターの事件の概要
事件の流れ
日付 | 内容 |
2022年 1月14日 | BM社員による通報をきっかけにSJ社の保険金サービス部門(以下、「保サ部門」)がBM社の不正請求疑義を認識 同日、ビッグモーター社(以下、「BM社」)を担当する営業担当役員および保サ担当役員にも報告 |
3月 | SJ社にて自主調査をした結果、損傷偽装や損傷のない箇所の塗装作業など、不適切な保険金請求の疑義事案を確認 |
5月17日 | 営業担当役員・保サ担当役員からSJ社長に初回報告
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6月15日 | BM社への入庫紹介を停止 |
6月30日 | BM社から「不適切な保険金請求の疑義事案は組織的な指示によるものではなく作業ミスである」旨の社内調査結果を受領 |
7月6日 | SJ社長を含めた関連役員によるBMに対する今後の対応方針を協議
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7月11日 | BM社長(当時)との面談(SJ社からは営業担当役員が参加)
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7月25日 | BM社から提示された再発防止策を確認したうえで、BM社への入庫紹介を再開 |
8月31日 | 経済雑誌での報道を受け、SOMPOホールディングスのグループCEO、グループCOOに初回報告
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9月9日 | 「不適切な修理について工場長から指示を受けた」とBM社作業員が証言しているとの情報を確認 |
9月14日 | BM社への入庫紹介を再停止 |
不正により損保ジャパンの収益は上向いていた
ビッグモーター社との取引によって自賠責保険の件数が顕著に伸びています。
収入保険料の推移
入庫紹介件数の推移
損保ジャパンについて
損保ジャパンの会社概要
会社名 | 損害保険ジャパン株式会社(そんがいほけんジャパン、英語:Sompo Japan Insurance Inc.) |
会社HP | https://www.sompo-japan.co.jp/ |
設立年月 | 1944年(昭和19年)2月12日 |
本社所在地 | 〒160-8338 東京都新宿区西新宿一丁目26番1号 損保ジャパン本社ビル |
事業内容 | 損害保険事業 生命保険事業 |
関連動画
損保ジャパンとビッグモーターの取引の経緯
日時 | 出来事 |
1988年7月 | 旧安田火災社がBM社との取引を開始(乗合)、翌1989年に旧日本火災が乗合い、1991年には旧日本火災を代申会社に変更 |
1997年3月 | BM社からの要請により同社株式5,000株を購入、以降要請に応じて15,500株まで買い増したが、2016年にBM社からの要請により全株式を売却 |
2004年 | 店舗数拡大に伴う保険部門の強化を目的に、BM社から代申社である旧日本興亜に出向者派遣の要請があり、営業部門への出向を開始 |
2011年4月 | BM社前副社長が旧日本興亜に入社。経理部門に所属し、翌2012年6月末に退社 |
2014年 | BM社が入庫紹介台数1台あたり自賠責保険5件を他損保に発券するルールを導入 |
2015年5月 | 板金・塗装の見積技能や修理品質向上の支援を目的として、BM社からの要請を受けて板金・塗装部門への出向を開始 |
2016年 | SJ社提案により「BMパートナー制度」を導入。SJ社と連携した継続的な品質向上の取り組みにより、多くの工場が簡易調査対象工場へ到達 |
2019年4月 | BM社の全工場に対する「簡易調査」を導入し、損害調査業務を東京保険金サービス部に集中化 |
2020年9月 | BM社がPT(プライシングチーム)を新設し、修理見積の作成を一拠点で集中して行う体制を導入、12月にPTの対象を全工場に拡大 |
2022年1月 | BM社員による通報をきっかけに同社の不正請求疑義を認識 |
損保ジャパン ビッグモーターの事件の要点
なぜ損保ジャパンはビッグモーターの保険金不正請求を見て見ぬふりをする形で取引を続けていたのか。それには次のような理由があるとされています。
中古車販売業者が自賠責保険、任意保険の契約窓口になることが多い
損保ジャパンをはじめ保険会社が扱う自動車関係の任意保険商品、並びに自賠責保険。
これらにお客様が加入する際の窓口に中古車販売会社などがなることが多いという業界の慣例が主な理由だとされています。
保険会社は自社の商品を売り込んでほしいですが、中古車販売会社がどの保険会社の商品をお客様に売り込もうが自由です。
そこで自社の保険をお客様に売り込んでもらうために、何らかの便益を中古車販売店に持ちかけることになります。
自社の保険勧誘をお願いする代わりに事故車の修理先として紹介する
1件でも多くの契約が欲しいのはどの保険会社も同じですが、損保ジャパンはビッグモーターに自社の商品を贔屓していただくために、事故等の修理で保険を使おうとしているお客様に対して「事故車を修理する際にはビッグモーターが良いですよ」と案内していました。
ビッグモーターは事故車の修理案件が増えれば売り上げも伸びますので、そのお礼とばかりに損保ジャパンの保険をお客様に紹介するようになりました。ただ、これだけでは何も問題はありません。
問題は、修理の際に本来の故障個所とは別の個所に傷をつけて修理費用を上増ししていたことと、それを損保ジャパン側も見て見ぬふりをしていたことです。
見て見ぬふりさせしていれば、ビッグモーターは本来の修理よりも多くの修理代を請求できる、ビッグモーターは保険を売り込んでもらえる。悪い意味で、持ちつ持たれつの関係になっていたのです。


他の保険会社へ乗り換えられる不安
当時の損保ジャパンの社長の白川氏は、一度はビッグモーター社との関係を切ったのに、なぜまた再開したのか?という理由について、「他社との競争があった」ということを認めておられます。
その不安を強烈に刺激したのが、三井住友銀行がビッグモーターに近寄って「これ以上は追求しないから、うち(関連会社のニッセイ同和損保)の保険商品を扱ってくれ」とオフレコで求めているという噂。
ほどなくして、ニッセイ同和損保のビッグモーター社が保険商品を全店で取り扱う方針に転換したことで、それを阻止するためにはビッグモーター社にまた損保ジャパンの保険商品を扱ってもらうしかない。
そう判断したとのことです。

損保ジャパン事件の保険不正請求事件の対処・対応
自動車保険金の不正請求被害にあわれた可能性のあるお客さまへの対応
お客さまのお車の安全性点検
ビッグモーター社で修理車検をされたお客様を対象に、再度、お車の点検費用を損保ジャパンが負担する形で車両の安全性の確認、また保険の等級を正しい等級への変更を承る形で対応されるようです。
ビッグモーター社(以下、「BM社」)に入庫され、実際に修理を受けられた損保ジャパン(以下、「SJ社」)のご契約者さま、事故のお相手の方のうち、お車の走行にご不安なお客さまを対象に、法定24か月点検相当の項目とその他お客さまから申し出がなされた車両異常箇所について、車両の走行機能の安全性等の確認に要する点検費用をSJ社が負担いたします。
- BM社に入庫され、実際に修理を受けられたSJ社ご契約者さま、事故のお相手の方のうち、お車の調査を希望されるお客さまを対象に、SJ社社員等がお車の事故損害箇所(修理箇所)および事故と相当因果関係があると思われる箇所について、原則訪問し、見積どおり作業されているのかを調査いたします。
SJ社自主調査に基づく等級訂正
BM社による調査をふまえた正しい修理代金が確定するまでにはお時間をいただくことが予想されるため、SJ社による調査が完了した時点で、お客さまにご案内をする方式へ変更し、速やかな等級訂正手続き等をご案内してまいります。
専用フリーダイヤルの開設
BM社による不正請求の被害にあわれた可能性のあるお客さまからのお問い合わせ専用窓口を設置しております。

BM社を取扱代理店として保険にご加入されているお客さま
SJ社は、BM社との代理店委託契約の終了を決定していますが、お客さまの自動車保険等のご契約は満期日まで有効に継続しております。
また、委託契約終了前であっても、お客さまのご希望による取扱代理店の変更手続きに対応しております。これらの事項につきまして、お客さまにご安心いただけますように、書面でのご案内を順次開始いたします。
ビッグモーター社経由で契約された損保ジャパンの保険に関しては、満了前であっても柔軟に変更対応されるようです。
騒動を受けて損保ジャパンの社長が引責辞任
損害保険ジャパンは、ビッグモーターによる保険金の不正請求問題への対応の責任をとって白川儀一社長が辞任することを発表しました。
【詳しく】損保ジャパン会見 白川社長辞任 ビッグモーター問題 | NHK【NHK】損害保険ジャパンの白川儀一社長が、去年、ビッグモーターによる不正の可能性を認識していながらいったん中止していたビッグモー…
当初は事件が不透明なため辞任を否定していましたが、ビッグモーターとの癒着にも近い関係性が明らかになりましたので、その責任をとって引責辞任されました。
白川儀一氏について
氏名 | 白川 儀一(しらかわ ぎいち) |
生年月日 | 1970年8月19日 |
出身地 | 北海道北見市 |
学歴 | 立命館大産業社会卒 |
経歴 | 1993年 前身である安田火災海上保険に入社 2019年 執行役員経営企画部長 2020年 取締役執行役員 2022年4月 社長に就任しました。当時、51歳での社長就任は損害保険ジャパンの設立以来、最も若く、“37人抜き”の人事としても注目されました。 |
日本損害保険協会が再発防止に取り組む姿勢
金融庁が損保ジャパンに立入検査に入ったことを受けて、日本損害保険協会の会長が再発防止に取り組む姿勢を見せました。
ただ、日本損害保険協会の会長はあいおいニッセイ同和損保の社長でもあり、ビッグモーターは損保ジャパンの保険商品からあいおいニッセイ同和損保へと一斉に切り替えた背景には、あいおいニッセイ同和損保のグループ会社の三井住友銀行からの耳打ちがあったとされています。
その原因究明も金融庁は本腰を入れており、三井住友銀行へ報告するように命令を出しています。


最後に
ビッグモーター社における保険金不正請求によって、一時はその行為の被害者とみられていた損保ジャパンも、事件の構図を紐解いてみていくと、共犯関係ではないのか?ということで一気に明るみになったビッグモーターと損保ジャパンの歪な関係。
その中身をじっくりみていくと、何も珍しい事や特別なことではないようにも感じます。
売上が欲しいという両者の思いが背景にあるのは当然のことながら、次の1点がこの問題の中心にあると思います。
- 自動車店が保険の販売窓口になれる
自動車店さんが保険の販売窓口になれますから、各保険会社がそのための便宜を図ることになるのが自然な流れとも言えます。
複数ある保険会社の中から、自社の保険をお客さんい売り込んでほしい!とどの保険会社も思うはずですから。
そして、その構造がある限り、第二第三の同様の事件は起きるでしょうし、もしかしたらバレてないだけで既に起きている可能性もあります。
今回の損保ジャパンの件を、問題を生み出す構造をつぶすキッカケにできればいいな…と思います。
同時に、もしあなたが自動車をお持ちなら、どの自動車会社と懇意にするのか、どの保険会社の保険を使うのかを一度しっかりと客観的にチェックしてみるほうが良いかもしれません。
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